書評日記 第163冊
BOOM TOWN 内田美奈子
竹書房

 既に他人が紹介してる本を、自分が紹介すのはちょっと気が引ける。というのも、この内田美奈子「BOOM TOWN」は裏日本工業のリュウイチさんが、以前に扱っているからである。不思議なことだが、彼も物書きを目指しているらしい。偶然の一致か、彼も少女漫画を良く読む。また、読む漫画の傾向も似ている。
 彼は記者だから、俺から見れば、文章で飯を喰っているように見える。彼自身はどう思っているか解からないが、俺はなんとなく羨ましい。ただ、最近気が付いたのだが、ごく普通のライターになりたいのであれば、それで十分かもしれないということ。少なくとも文章を書いて、それで飯を喰っているという大前提が成り立つ。
 でも、多分、不満なのだろうな、と思うし、俺も不満になると思う。やっぱり、こうやって自分の好きなように書く文章――究極的には「小説」――で自分の思った通りに書いていくこと、自分の能力をフル回転させて、それでいて、飯を喰っていくこと、が俺の「目標」なのかもしれない。ま、彼もそうだと思う。
 果たして、彼も俺も自らの日記を公開している。これも偶然(?)であるのか、博文館(ああ、ホームページのアドレスが解からない)のリンクで並んでいる。ただ、その内容が彼と俺とではあまりにも違う。彼の日記は、情報誌になっている。俺の日記は……モジるならば情熱誌といったところだろうか。そう、悪いのだが(?)、彼の日記は既に読んでいないし、参考文献からも外してしまった。
 彼は「物書き」になりたいと思う。俺も「物書き」になりたいと思う。だが、俺は、彼が物書きにはなれないと思う。少なくとも「小説家」にはなれないと思う。

 俺の日記は、ここまで変化してきた。確かに、日常生活はプログラマとして、文章とは無縁の生活を送っているし、また、人が思うほど創造的な職業でないことは確かなことだし、それは退屈な毎日だ。
 インターネットで日記を公開しはじめて、かれこれ5ヶ月以上になる。本を紹介するという目的から、日記界でのごたごたに関わることから、はたまた、現実の世界でのごたごたから、それは総合的に見れば、非常に変化に富んでいる毎日である。
 自分の才能限界まで、自分の才能を糧にして、そして、自分の才能に寄り添った人生を送ることができるならば……つまり、それこそが俺の「本望」なのかもしれない。
 何故、「飯を喰う」の部分にこだわるのか。何故「プロ」にこだわるのか。つまりは、俺が好きな人達は、自分の好きなことで「飯を喰っている」ように見えるし、まさしく、それは「プロ」なのである。で、俺の場合、小説を読むし、こうやって文章を書くのも好きだし、なによりも話をすることが好きだし、読者に対して何かを与えたいし……その手段を考えた時、それが「漫画家」であったり「小説家」であったりしたわけだ。
 果たして、「漫画家」は無理だと知った今、「小説家」を目指し、かつ、小説を書き続けることを目的とするわけだが……、そう、最近、「焦り」が随分少なくなってきている。ひょっとしたら、俺は第一段階をクリアしたのではないか、と思う時がある。「物書き」としての姿勢、つまりは、自分の内面を相手に継続して伝えようとする意思、そういう自らの内面より湧き出る発祥の地を発見したような安心感がある。
 うーむ。本当は、サボっているだけかもしれないけどね。まあ、焦るな焦るな、と自分を静めている次第。少なくとも、毎日大量の文章を書いている限りは大丈夫でしょう。継続は力なりと申しますから。
 さて、「BOOM TOWN」の感想なのだが、以上のことを感じる……といったら、曖昧すぎるだろうか?
 いわゆる電脳都市で遊ぶ人達とそれを保守するハッカーの物語といえばいいだろうか。武部朱留と小津雪ヲの関係を自らに転化させたいのは、ま、個人的な話。少なくとも、天才ハッカーの二人のコンビが相互に刺激しあって考えるこというのは、ひいては内田美奈子の考えることであり、読者の俺に伝えたいことであり、こうやって紹介することによって、俺が考えて伝えたいことなのである。

 そう、「BOOM TOWN」はこの日記界そのものと思っても過言ではない。人と人とが接する。別に顔を合わせる必要はない。メールでやり取りをしたり、日記自体で私信としてやりとりをしたり、そういう「毎日」の部分が、この世界を日々進歩させているのではないかと思う。

 俺も人の日記を読み、いろいろ考えさせられる。
 また、君が俺の日記から、いろいろ考えてくれれば、それで良い。
 それこそが、俺の目的なのである。

update: 1996/12/07
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