書評日記 第455冊
ムトゥ踊るマハラジャ K・S・ラヴィクマール

 2時間46分の映画は、見ているだけで疲れるのだが、『ムトゥ踊るマハラジャ』は、笑っているだけで疲れる。
 ストーリーは単純(?)な、ハッピーエンド・ストーリーである。ムトゥが実はマハラジャであったこととか、人が死なない――正確には、ひとり首吊りをする――拳銃を撃たないとか、誰もがハッピーで終わるとか、そういうところに目端が利いている映画だと思う。
 無論、スーパー・スター・ラジニカーントが、「踊る」のが楽しいわけだし、実際この映画のツボはそこにあるわけだし、妙にカンフー映画を意識し、西部劇を意識し、MTVを意識していて、それらをごちゃまぜにして詰め込んだ面白さは、特筆するものがあると思う。だが、それだけではちょっとした踊りの多い実験的(?)な娯楽映画になるのだろうが――ラジニカーントが出てくるという意味ではアイドル映画かもしれないが――、そこにストーリーがきちんと絡み、ギャグな部分と相反しない形で終わらせているところにこの映画が面白い根拠があるのだと私は思う。
 マイケル・ジャクソンとジャッキー・チェンと西部劇と仮面ライダーと七人の侍が、同時に集えばこういう映画ができるかもしれない、と思わせる。多分、監督は映画が大好きで、たくさんの映画を見ているのだと思う。そこここに挿入される的確なシーンがそう思わせる。
 
 思うのだけど、あれだけ入れすぎな効果音と派手すぎるアクションと陳腐すぎる対決シーンは、辛辣な風を装う(と私には見えるときがある)昨今のアメリカ映画のパロディに見えるのは私だけだろうか。明らかにギャグに見えるし、明らかに真剣が通り越している行き過ぎな面もあるし、どこまでが真面目…というか監督の意図に沿った形で私ら日本人観客に伝わっていたのか疑問はあるものの、それぞれの観客が喜び拍手をし笑ってちょっぴりしんみりとすることが出来るのは、なんかすごいことだと私には思える。
 難点を云えば、最後の筋がちょっと中だるみであるのと、どうせならば、ラストは盛大に踊って締めて欲しかったのだが…、まあ、そんなことは些細なことなのだ。2時間46分という映画の長さからすれば、それぞれが好きな部分を楽しむのが一番良い。
 どたばた、アチャラカ、一歩手前の真剣さがこの映画の特徴だと思う。

update: 1998/11/08
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