書評日記 第458冊
世界文学のすすめ 大岡信 他
岩波文庫別冊 ISBNISBN4-00-350016-4

 小説を書こうとするとき、さして世界文学を必要としないかもしれないが、私の好きな小説家は小説をたくさん読み、文学の勉強の一環として世界文学を読んでいる。となれば、それに追随したい者は、世界文学を読むことは必須ではなかろうか…、とふと思い買った。
 
 いわゆる、名作・名文は多い。小説という分野、文学という学問が出来てからどの程度経つのか知らないが、日に日に多くなっていく小説の山を見て、一生に読み切れないであろう本屋の本棚を眺めて思うのは、この小説の山から私は一欠けらを選んで読まなくてはいけないのだ、という必然性である。
 日本の古典・古文、または、イギリス文学・フランス文学、という形で研究するのであれば、濫読する必要はなく、むしろ、いくつかの評価の固まった作品に精通すればそれでよい。
 だが、ひとたび娯楽としての文学、趣味としての読書、そして、生きている間はこれから離れることがないであろうという習慣に至ったとき、そここに散らばっている散漫で現代風な評価を当てにするのも詰まらなくなってくる。流行作品を追い求めるのもひとつではあるものの、それらを生み出すもとになったであろう――すくなくとも私の好きな作家はそれらに精通しようといる――作品を知ることは、回りくどいことではあろうけども、無意味なことではあるまい。
 端的に言えば、「教養」を拵えるために私は読もうとしている。
 すくなくとも自分の作品を作る段階で、徒手空拳であるよりも、根拠を持ったほうが遥かに楽であろうし、遥かに楽しいと思う。そして、なによりも集団無意識とはそういうものである、ことを私は感じている。
 
 「世界文学のすすめ」は、最近出版されたものであって、やたらに古典に偏ってしまう、名作全集よりはずっとおもしろいと思う。30人が30点の本を紹介しているが、まあ、良くも悪くも30人分あれば好きな作家もいくつかは見つかるのではないだろうか。
 
 メモのために列記しておく。

 「唐詩選」、「西遊記」、「オデュッセイア」、「オイディプス王」、「ソネット集」、「ガリヴァー旅行記」、「トリストラム・シャンディ」、「嵐が丘」、「怪談」、「黒猫・モルグ街の殺人事件」、「草の葉」、「白鯨」、「ハックルベリー・フィンの冒険」、「ある婦人の肖像」、「イタリア紀行」、「グリム童話」、「ヴェニスに死す」、「カフカ短編集」、「トリスタン・イズー物語」、「孤客」、「バルムの僧院」、「ゴリオ爺さん」、「感情教育」、「地獄の季節」、「罪と罰」、「アンナ・カレーニナ」、「可愛い女・犬を連れた奥さん」、「山椒魚戦争」、「千一夜物語」、「伝奇集」。

update: 1998/11/11
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