書評日記 第555冊
老人介護の誤り 三好春樹
新潮社 ISBN4-10-43901-5

 老人介護保険法が四月に施行された。四十歳以上の人が保険の対象となる──思うに実質的な年金制度のレベルダウンなのだろうが──ので直接私には関係ない……ことはない。定年を過ぎたふた親を持つ私には近い未来にある出来事なのか?
 
 呆けるあるいは寝たきりになる半身不随になる言語障害に陥る手足が不自由になる、老年になれば当たり前のことで、体力が落ち若い頃(あるいは人口のほとんどを占める労働者たち)とは違った暮らし方を強いられるのは当然のことなのだ。ただ、「介護」と一言で括られればあたかも、病人のように扱われ場合によってはベットに縛られ寝返りを強制されて、「直る」見込みのない患者としての日々を送らされる。
 この現実を著者・三好春樹はおかしいと云う。年相応に体力が落ち、年相応に記憶力が衰え、時には脳梗塞によって半身が不自由になってしまったとしても、彼らを「病人」として括るのはおかしい、とする。
 
 と、多少扇動的に書いてしまったが、『老人介護の誤り』は現在おこなわれている老人介護の状態を糾弾するものではない。いろいろな老人介護の本が出て、旧態依然とした介護の方法を紹介するテキスト(老人介護ではなくて病人介護からの移行)が多い中で、いちばん介護人=家族(?)に沿った方法が書かれている。
 たとえば、寝たきり老人の寝返りの仕方は、ちまたのテキストでは「左の足首を反対の足に重ね…」という意識不明の患者の寝返りを記述するのに対して、「腕を天井の方に持ち上げ寝返りを打ちたい方向に肩を曲げる」という本来の寝返りの方法を示している。
 風呂の入り方にしても寝ながら入る洋式の湯船や、レールを使ってベットから寝たきり老人を運ぶ電動式のものよりも、四角い和式の底の深い風呂の方が安全にかつ本人が安心して満足して入れる、ことを示している。
 
 老いることは病気でも異常でもない。徐々に年老いて体力が落ち記憶力が落ち──知力はあがると私は思う──、死に至るという人生は誰にでも訪れ得る(交通事故などは別だろうが)。しかし、平均寿命が八十を越える日本の社会で徐々に衰えていくことが大変になっている。あるいは、大変になるようにし向けられている。私はそんな気がする。
 私自身が老人介護をするのはもう少し先のことだと思う。それまでに力尽きないだけの知恵をつけておきたいと思う。

update: 2000/05/21
copyleft by marenijr