書評日記 第82冊
スは宇宙のス レイ=ブラッドベリ
創元推理文庫

 インターネットでは、隣人は他人なんでしょうか。東京だって、大阪だって、シカゴだって、こんなに簡単に行けるのに、ひとが其処に居し、そして暮らしているのに。日々、無視できない時間をかけて日記を書いているのに。何故?

 小説家は、誰のために本を書いてるのか、冒頭に掲げる賛辞のひとのために、それとも友人、それとも特定のひとのために・・・いや、違うと俺は思う。
 小説家や漫画家は、読者のために、自分の作品を楽しみにしてくれる読者のために、そして、まだ見ぬ読者のために、空間や時間を超えたところにある、彼の読者のために書く。

 読者のための作家シリーズ、一冊めは、レイ=ブラッドベリの「スは宇宙(スペース)のス」(創元推理文庫)です。すでに知っている人が多いと思うので、解説をするのも恥ずかしいけど、ま、一応しておくと、「夢をもつ少年のためのSF小説」というところでしょうか。いわゆるファンタジーSFが流行っている現在のSF界。その先駆というか、ま、少なくとも川原由美子の「前略ミルクハウス」を生み出すことになった小説であることは確かなこと。多分、というか、絶対、彼の影響を受けている人は多いと思う。
 世の中のSF少年少女の心を鷲づかみにし、いまでも離しません。

 何故なのか。

 語っているのは、現実にはレイ=ブラッドベリというSF作家ただひとり。
 彼が、俺のために書いているわけではないことは明らか。
 でも、彼の言葉が、俺の心をとらえて離さないのは何故か。
 そして、川原由美子をとらえ、「前略ミルクハウス」を描かせたのは何故か。
 多大なる時間をかけて、その作品を世に送り出したのは何故か。
 そして、川原由美子の漫画が俺に呼び掛けるのは何故か。
 そして、俺が、こうやってブラッドベリを紹介するのは何故か。
 川原由美子を紹介するのは何故か。
 決して、少なくない時間をかけて紹介するのは何故か。

 そして、あなたが、何故、日記を書き紹介するのか。
 よく考えてみてください。
 すぐに解るでしょう。

 BGMは、矢野顕子「ただいま」より。
   ASHKENAZY WHO?

左手はわがままに右手ははにかみがちに
ほほえんでもらうために
わたしは指先で
鍵盤をなでつづける

ほっとけば沈んでいく心にベルトを締め
夜毎のパーティーのため
わたしは部屋中に
モオツアルトをへばりつける

モヤモヤイライラアシュケナージ
わたしのためにひいてください

左手は律動的に右手は夢見がちに
あなたの愛得るため
わたしは密やかに
鍵盤をひきちぎる(repeat)

左目は遠い海右目はエボナイト
涙を忘れるため
わたしは額を
鍵盤に打ちつづける

グシャグシャフニャフニャアシュケナージ
わたしのためにひいてください

repeat

update: 1996/08/26
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