書評日記 第94冊
眠れる美女 川端康成
新潮文庫

 BGMは、山下洋輔の「スパイダー」。
 俺、JAZZは好きで、よく聴くのだけれども、別に誰、というわけではないんですよね。大学時代、毎日というほどよく通っていたV7という喫茶店で、掛かっていた曲を聴いている程度です。ま、山下洋輔のCDは何枚か持っています。ピアノの音が好きで・・・。以前、矢野顕子の歌を羅列しましたが、彼女のピアノも最高です。
 で、なんで、初っ端に山下洋輔なのかといえば、このCDの一曲目、「Cats Dance」。最初の数小節で、ピンと来ました。あのV7に掛かっていた曲が、ピアノの音が、音符の羅列が、山下洋輔だったわけです。当時、既に彼のピアノの音を聴いていたわけですが、何で、つながらなかったんでしょうねえ。大好きな曲です。そして、再び、大好きな曲になりました。

 なにかこの「再会」というものは、こういう時間を置いたところにあるもの、時間を置かなければわからないものかもしれない。
 本日の一冊は、川端康成の「眠れる美女」です。

 川端康成の名前は御存知でしょう。
 「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」という出だしだけが有名な「雪国」。
 列車の名前でしか知らない「伊豆の踊子」。
 はあ、そんなもんです。なんかね、俺、中高時代は、あまり本を読みませんでした。印象深いのが、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」とトルストイの「戦争と平和」なんですから、いやはや、なんとも、読書とは遠い生活をしていたものです。以前も話しましたが、そんなわけで、俺の場合、川端康成のような教科書に堂々と出てくるような作家を読んでおりません。ま、大学に入ってからぽちぽち読みはじめてはいるのですが、なんか、今さら恥ずかしくって、という感じ。
 川端康成の本の最初は、「掌の小説」でした。掌と云いながら、なんとも分厚い本。片手で持つと痺れてしまうような「掌の小説」でした。短編がうんざりするほど載っていた小説です。ま、最初の出会いは、失敗だったわけ。

 で、今回は、「眠れる美女」。うーむ、傑作ですね。これが、川端です。
 ざっと話せば、「老人が、眠っている女性に添い寝する話」なんだけど、まあ、犯すわけでもなく(犯そうとはしますけど)、執拗な愛撫をくり返すわけでもなく、ただただ、自分の「老醜」さに涙し、若い女性の薫りを楽しみ添い寝する。そんな話です。ラストの部分も結構気に入ってます。ま、それは、本にあたってください。それほど長くないし、薄い本なので、腕も疲れません。

 「老醜」という言葉が気に入っています。年をとると、外見よりも、まずは、心が醜くなってしまう。いろいろな経験をした後に現れるのは、経験でもなく、知恵でもなく、ましてや、大人の余裕でもなく、ただただ、人生というものに疲れてしまって、人の世界で汚れてしまった醜い心のみが、残ってしまう。人生のカスが。
 とはいえ、人は年をとると全てそうなるわけではないのは、皆さんは、既にわかっていると思います。俺は、最近解りました。やっとこさ。谷川俊太郎、彼奴は、偉いぜ。俺の目標にさせて頂きます。「入場料440円 ドリンクつき」。はあ、佐野洋子の旦那だったわけね。ちっちっちっ。うらやましい奴。

update: 1996/09/09
copyleft by marenijr