書評日記 第129冊
ミルキィ先生 中垣慶
少年画報社

 最近、一日一日が濃い。確かに、会社には行っているんだけど、あんまり仕事もせずに、メール書きと「日記物語」を書いている。実質、コンピュータの仕事をしているのは半日以下じゃないかと思う。普通は、仕事なんだし、一生付き合っていく仕事だから、いろいろ物事を覚えたり、勉強したりしなくちゃならないんだけど、どうもね、俺には身が入らない。別に、仕事が嫌いなわけじゃないんです。そう、大学時代からコンピュータは好きだったし、それに対して「夢」も持っていた。だから、独学でC言語を習得したり、TRONのOSもどきを作ろうとしたりしていた。そういう風なものが好きだったし、コンピュータ関係で何かをするには必要だと思ったから、そうしていた。ある意味では、それが間違いの元だったのかもしれない。漫画が描きたいと思って大学に入ったはずなのに、一歩も進めなくなって、パソコンで憂さ晴らしをして、実りのないプログラミングに明け暮れていたような気がする。
 まあ、大学を7年行って、大学院に落ちて、10月末、そう、今日という日に、ここ会社に面接をして、家に帰って、その日のうちに即採用の電話を貰ったのは、そういう土台があったからかもしれない。ただ、その時は、嬉しかったというよりも、ほっとした。ほっとした自分がちょっと可哀想だった。
 それでも何かできるんじゃないかと思って、半年の研修期間を終えて、最初の仕事に対してやっきになった。でも、1か月過ぎ、2か月過ぎると、何かが違うような気がしてきた。確かにプログラミングという作業は楽しい。どこか創造性さえ感じられる、ちょっとしたアイデアを盛り込める、そういうパズル感覚で作れる、そんな感じがした。でも、ちょっと空しくなるのは、納期があったり、操作上の制約があったり、相手との交渉があったりして、なかなか自分の思い通りに進まないことだった。勿論、それが仕事というものだし、そういう制約の中でいろいろ試してみることが必要なわけだし、また、仕事は仕事、趣味は趣味という切り分けをすれば、結構楽しめる商売だし、それでもいいかな、と思った。でも、毎日毎日、遅くまで仕事をして、家に帰るとぐったりして、ご飯食べて、TVを見て、寝る。そういうルーチンになりつつある自分を見て、末恐ろしくなったものだ。
 インターネットでHPを作り始めて、ちょっとは、趣味の世界が広がったような気がした。もともと、「本」が好きだったし、そういう紹介のものが欲しかったし、紹介するのも好きだったし、「本」ってものを読んで欲しいし、自分の好きな「本」を知って欲しいし、また、プログラムだって、フリーでいろいろ作りたかったし、プログラム関係のHPもたくさんあったし、いろいろ楽しい世界を創りたかった。そして、それに参加したかった。
 「本」を紹介するんだけど、いかに自分が膨大な本を読んできたか解った。そして、いかにこの世には膨大な本があるか解った。そう、あるきっかけで、自分の能力に気付いた。漫画だけじゃなかったみたい、プログラムだけじゃなかったみたい、というか、自分が自分を幸せにできる唯一の手段が、「物書き」という仕事みたい。小学生の頃から為りたいものはいろいろあった。医者になりたかった。NASAで宇宙飛行士になりたかった。漫画家にもなりたかったし、物理学者にもなりたかった。プログラマとして成功もしたかった。大学時代、苦しくてもパソコンに手を出すべきじゃなかと思う時がある。良く解らないけど、そういう、ふらふらとした態度が良くなかったんだろうな、多分。
 今は、そう、良いのか悪いのかプログラムに関しては、趣味以上の感情を持たなくなっている。会社では作業をやっている感じ。そう、堕ちるという感じはこうじゃないだろうか。社会的には俺はもう駄目です。出世にも興味はないし、金儲けをしようとも考えていません。人を蹴落とすこともできません。ある意味では、何もできないかもしれない、そういう状況になりつつあります。まあ、生活のために会社は止めないし、止めさせられな程度に仕事はこなすし、そういう気分しかありません。でもね、最近、一日一日が非常に濃いのです。これほど毎日毎日ものごとをきちんと考えて丁寧に文章に残している日々は今までありません。
 物語を作る時に、悩みます。イライラします。やっぱり、会社で平穏に暮らした方がいいかな、とも思います。でもね、圧倒的に楽しいのですよ。俺は。文章を書いている時が一番。常に真剣勝負をしているような気分です。

 非常におざなりではありますが、漫画な俺が、一番最初に目指した絵柄が中垣慶「ミルキィ先生」です。何でこの絵柄に惹かれるのか、未だに良くわかりません。いっちゃあ悪いけど内容は、それほど面白いものではありません。ただ、漫画を描きたい、描き続けていたいという情熱がそこにあるのかもしません。まあ、好みの絵柄であったのかもしれません。ただ、俺は、漫画を描きたいと思った時、まず、模写をしようと思った時、いろいろな少年漫画雑誌を読みました。そして、「少年キング」というマイナーな雑誌を見て、更にマイナーな「ミルキィ先生」を見て、これを模写しようと思ったわけです。
 神戸で一人で頑張っている漫画家です。考えてみたら、この方も女性ですね。
 あれ?、なんだ?、結局、俺って、女性に振り回されているだけなのか?
 ちょっと、あなたの霊感はなんと言ってますか?、教えて下さい。

update: 1996/09/09
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