書評日記 第157冊
白鯨 メルヴィル
新潮文庫

 どわ、は、うーむ、やっと終わりましたぜ。引越し。
 まあ、海老名から阿佐ヶ谷へ、生活空間は移さず、精神空間のみを移すこの作業、あ、いわゆる俺の「本」だけを引っ越しさせたわけだが・・・ああ、ううー、ぐう、まいった、まいった。段ボール箱に40箱以上というのはなんたることだ。詰めても詰めても無くならない。積んでも積んでも無くならないこの作業は、苦力(クーリー)そのもの。海老名の団地の4階から地上へ往復すること数十回。ライトバンで走ること2時間強の末、阿佐ヶ谷の新居へ。再び、地上から2階の新居へ往復すること数十回。
 なんつーか、やってらんねぇのは、そーなんですけどね。まあ、古本屋に売ってしまえば、一冊10円ぐらいにしかならないわけだから、それもあんまりだし、つーわけで、片っ端から持ち込んでしまったのがこの結果です。

 まあ、あるあるあるある。基本的に文庫本と漫画本が中心なんだけど、ジャンルがね、まあ、いろいろ。整理する気が失せてしまうほどの膨大な量だなあ、とか感心していたんだけど。今度、見に来ますか? うーむ、よくさあ、作家の部屋で対談風景なんていう写真を見ると、俺の部屋の3倍ぐらいの本があったりするから、ああ、彼らはどれだけの本を所蔵しているんだろうか。って、ううむ、負けてられない、なぞと思うのは傲慢かな?
 
 そうそう、俺が本格的に「本」を買い始めたのは、浪人の頃からだから、かれこれ、10年の間に買ったすべての「本」が此処にあるわけ。その間、引越しは3度経験しているが、古本屋から本は買うけれども、古本屋に本を売ったことがない。まあ、いわゆる「ため込みタイプ」なわけ。
 一度、読んだ本なんて、めったに読み返さないのだから、古本屋に放出してしまってもいいような気がするのだが、でもなあ、本棚に一冊一冊積み重なっている(既に平積み状態なわけね。)感覚は、まあ、本読みにとっては「読破」という感覚がね、たまらないわけ。「征服感覚」という感じやね。
 まあね、読書家を主張する俺としては、これぐらいの量は読んでおかないとだめかなあ、なぞと自負してみたり、同志(?)にもこれぐらいは幅広く量多く読んで欲しいなあとか、望んでみたり、ま、そのへんは、いろいろ。

 大学1年の頃、スチールの本棚を買って、そのすかすかの棚を見て、
 「ああ、この本棚がいっぱいになる時が何時か来るんだろうなあ。」
 なぞと思っていたわけだが、まさか文庫本で一杯になるとは思わなかったね。基本的に、科学書関係で一杯にするつもりだった。

 さてと、そんな膨大な本の中からちょっと気になった本があったので紹介しよう。
 メルヴィルの「白鯨」。
 これは、俺が浪人時代にちょっと慕っていた英語講師が卒論の対象にしていた小説である。当然、英文科だったのだろうけど、こういう本を分析する(?)んだなあ、とか思って買って読んでみた。
 内容は、意外と面白かったことを覚えている。
 とある船長がモーヴィー・ディックという鯨を追いかけまわすという、単純なストーリー。ただ、その面白さは、そういうストーリーの中にあるのではなくって、鯨に関する蘊蓄と、やたらに、モーヴィー・ディックに執着する船長の姿・・・なぞというと、俺が「白鯨」をきちんと読み込んだように聞こえるが、いや、本音を吐けば、当時、理系であった俺は文系の奴がどういう本を読んでいるのか非常に興味があった。科学関係でもなく、くだらん小説でもなく、いわゆる大学で研究する文学というものは一体どういうものなのか?なぞと、意気込んで「白鯨」を読んだわけ。
 そう、はっきり云って、最初の部分はつまらないんだよなあ。何が面白いのか全然わからない。ただ、だらだら、港で酒を飲み交わしながら話をして、だらだらと目的の鯨を追う。そういう淡々というか、一見すれば何も得られないような感じがして、つまらなかった。理系の俺にとっては、もっとずばっと、はっきりした事実が欲しかった。
 ただ、上巻の半ばを過ぎたところからだろうか、俄然読むスピードが上がったのを覚えている。何かが面白くなったのだった。それから最後までは一気に読み進んだ覚えがあるんだがなあ・・・何が面白かったのかはよく覚えていない。
 そうそう、別件であるが、ウンベルト・エコーの「薔薇の名前」も一気に読んだ。これも何が面白いのか解らないまま、のめり込んだのを覚えている。

 いわゆる文系の人が卒論の対象にする小説ってのは、意外と面白いものが多い。ただ、面白いのが多いんだけど、何故か、解説書の類はぜんぜん面白くないことが多い。なぜなんだろうなあ。作品をばらばらに刻んでしまうことが面白くないのだろうか。言葉が滑るから?単なる単語の使い方とか文法の解釈にこだわってしまうから?
 よーわからんけどさあ、少なくとも原書の類いは、「ああ、時間を経て残っているだけはあるね。」という感じがする。うん。

 さて、この膨大な文庫本。100年経っても残っている作品はいくつあるのだろうか。
 とかなんとかさあ、考えてみたけれど、まあ、俺にとって面白い作品はこの中にたくさんあるわけで。いや、まあね。俺の中身はさあ、こういう膨大な本で出来ているんだなあ、とか改めて思った次第。

update: 1996/12/01
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