書評日記 第522冊
バトル・ロワイアル 高見広春
大田出版 ISBN4-87233-452-3

 私は話題(?)の小説を読むことが少ない。敢えて避けているためでもあるし、世間での評を読み、そして、期待しながら読むうちに、私の評自体への評価が低くなってしまったからだと思う。
 だから、「バトル・ロワイアル」が、「中学生42人の皆殺しゲーム」であろうと、某ホラー小説大賞――と後ろに書いてある。どの小説大賞かは私は知らない――で「非常に不愉快」という評価を下されようと、あまり関係ない。

 ひと言で云うならば、少年マガジンに載っている漫画である。小説の場合、どんなに単純化しようとしても漫画ほど単純に描けないし、映像は読者の想像力に頼るものだから、漫画ほど読者の作る映像を固定化させることはできないのだが、「バトル・ロワイアル」に散りばめられる様々な戦闘シーンや殺し合いのシーン、挿入される戯れ言、言葉遊び、全体に漂わせているロック的要素、帝国的雰囲気、軍事嗜好、坂持金発というパロディ教師、恋愛要素、などなど、は少年マガジンに載っているヤンキー&暴走族漫画を踏襲している。
 たぶん、文学的表現を作者・高見広春は追求していない、と思う。1300枚に及ぶ分厚い本は、時間的に一気に読み終えることはできなかったが、十数巻に及ぶ漫画を読んだ達成感を与えてくれる。一体、この殺し合いの中で何を学ぼうというのか、という教育的観点、PTA的倫理嗜好を排除してしまえば、得るものは大きい。それは、クラスメートという見知った集団の中で行われる殺し合いという非人道性は、実のところは、クラスメートという言葉にある幻想を根拠にしている微笑ましさにあることに気付く。
 実のところは、殺人が出てくるから推理小説が嫌いであるという私が、殺し合いを主にした「バトル・ロワイアル」という作品にのめり込むことが出来たのは、作品内の荒唐無稽な世界――こんなことになるかもしれない、疑似現実性から出てくる不安は私は持たなかった――が、友情・恋愛・冷酷などの、漫画的な抽出方法をかっちりと辿っていることにある。きちんと主人公は主人公らしい。殺し合いとはいえ、止むに止まれぬ事情・正当防衛・疑心暗鬼で殺す場面の方が「ゲームに乗る」二人の場面よりも多い。ラストシーンは映画らしく仕立ててあるし、何よりも3年B組というパロディの仕方が最高である。
 
 と、べた賞めしているが、これは片方で「家畜人ヤプー」を読んでいるからかもしれない。想像力の貧困さから、「酒鬼薔薇事件」が起こったのならば、想像力の範囲を広げるためには、こういう作品も必要かと思う。
 ただ、私にとっては「バトル・ロワイアル」は世間で云われるような「社会的問題作」ではない。よく出来た&おもしろいギャクが詰まった漫画だと思う。

update: 1999/09/03
copyleft by marenijr