書評日記 第536冊
工夫癖 久住昌之
双葉社 ISBN4-575-2885-X

 帯に祝!!文藝春秋漫画賞受賞、とある。
 
 普段はこういう本を買わないのだが、表紙を包むようにして貼られたガムテープの装丁を見て、思わず買ってしまった。真っ赤な表紙に金文字で「老人力」と書いてあるぐらいインパクトがある。
 なぜに、漫画賞なのかと思うが、読んでみるとなんとなく良く分かる。街の中のオジハルを探し出しては写真を撮り、エッセーとも感想ともつかない数行の文を貼りつけて連載する。こういう手法は、一見ありきたりに思えるし、まとまって出版されてみれば久住昌之みずからが言うように赤瀬川原平の路上観察やトマソン研究の二番煎じのように見える。だが、赤瀬川原平や南しん坊が写真で捉えた建造物や顔を分類・分析してみせるのに対し、久住昌之の各写真に付されるコメントは感想の域を出ない。
 ふと、東海林さだおの「丸かじりシリーズ」を思い出して、それ風のマンネリズムを思ってもみるのだが、そういうほのぼの……というか東海林節というか、作者の個性というものが「工夫癖」には少ない。
 どちらかと言えば、全面に貼り出されるオジハル系列の工夫の結果は、集大成と羅列からしか出てこない、思わず吹き出してしまう笑いに支えられている。
 一種、新沢基栄の「奇面組」のような反則すれすれの顔ギャグのように、思える。
 だが、久住昌之の父であるオジハルの奇妙な工夫を出発点にして、戸外にあるオジハル系列の工夫と日常を写していき、最後に家に戻ってオジハルの描くワープロ絵の上達というストーリーを見ていると、一種の感動さえ覚える。なにかすごいものがあるような気がする。これが本当になにかすごいものであるか、本当のところはよくわからない。しかし、それが「漫画賞」という値なのであれば、多少なりともこの本の内容に何がしのものを見出したのであろう。
 にしても、電車の中で読んでいて思わず吹き出してしまう本は久しぶりであった。

update: 1999/10/27
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