書評日記 第582冊
平行植物 レオ・レオーニ
ちくま文庫 ISBN4-480-03435-8

 焦りは禁物だが焦燥感に追い立てられないと先に進まない性格である。何を為すのも中途半端。完成をみない恐怖から逃れるために到達することを避ける。評価を下されないように逃げ道を作る。優柔不断さ。目先の達成感を得るためにプラモデルのような構築と破壊を繰り返す。追い詰められどうにも逃れることができない袋小路に至ったときには頼りになるのは実力であるのだが、人はそれほど窮鼠な状態には陥らない。だから、擬似的にでも自らを追い立て背水となるような位置を構えてみて、成功いや実行しなければ道は無い状態を造れば、焦りから已む無く出てくる実行力を引き出せるのではないか、と空想する。息をするように継続的に。焦ることは無いのだけれど。
 
 日曜日、久し振りに図書館に行った。本読み者の常でさして目指す本もないのに本棚だけをじっと見つめてしまう。あの本を読みたかったのか、この作家を探していたのか、と思い出してみるのだが一向に思い浮かんで来ない。そのまま手ぶらで帰るのは口惜しいので一冊の本を手にとり数頁読んでみる。また、次の一冊を手にして読んでみる。と、手かざしに導かれたかのように河合隼雄著「猫だましい」をみつける。とあるブック・メーリングリストに流れていたものだ。手にとって本の匂いを嗅ぐ。「ホーム・パーティ」に出てくる少女のように。誰もが行う儀式。あるいは快楽。
 
 レオ・レオーニは絵本作家である。「あおいくん、きいろちゃん」が有名だそうだが、私の場合は「スイミー」という小さい魚が集まって大きな魚を撃退する話に馴染んでいる。
 「平行植物」はファンタジーで「鼻歩類」やル・グウィンの「カミング・ホーム」――というタイトルだったと思う。未来の考古学の話――に似ている。架空の植物から派生する話は科学風でもあり伝承風でもある。時間軸上に育っている手を触れることができない平行植物は、言葉から枝葉を伸ばしているいる。たとえば〈タダノトッキ〉という名の平行植物は〈タダノトッキ〉という言葉そのままに生えているのである。そんな前提がこの本にはある。言葉から出てくるイメージを平行植物という現実(?)に写し出していく。そういう作業の集大成のようなものだ。
 読んでいくとそこはかとなく楽しい。読む楽しみを与えてくれる本である。

update: 2000/08/22
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