書評日記 第632冊
クローディアの秘密 E・L・カニグスバーグ
岩波少年文庫 ISBN4-00-114050-0

 夜中に本棚の整理をする。本棚とはいえ黒のスチール製のボードに本が横積みになっている状態になっている。引っ越しから1年間が過ぎるというのに、まだオーディオを出していない……と思うと、なんかこの先もこのままのような気がして、綾戸智恵の『LOVE』を聴きながら。彼女のパワフルさはCD-ROMでは伝わらない。ピアノの弾き方なんだろうけど、低音がきちんと響くようなライブでないと駄目なんだろうな……とか。
 
 『クローディアの秘密」は、大貫妙子の「メトロポリタン美術館」の原作、というか、イメージの素になったもの。パートナーから渡して貰ってから二ヶ月程陰干しをしていました。読む順序というか枝分かれというか『ナルニア物語』とか『ミス・ビアンカの冒険』とか読んでいる後に続けて、というのも難であった、というか、単に他の本に紛れてしまったというか。
 主人公は少女クローディア。何か家出を決心して弟のジェイミーとメトロポリタン美術館で1週間暮らす。クローディアは長女で、かつ女の子で、小さな弟の世話をしたり皿を洗ったりするのに嫌気がさしてしまった。彼女達の両親は詳しくは描かれない。両親にちょっとした不満を持っているのは単なる理由付けに過ぎなくて、最後には何か「秘密」を持って帰ることで、自分を別の自分に変化させてる。<自分探し>というほど大袈裟なものではないけど、思春期に、人からこうと見られることを拒否して、外面に支配されてしまう内面を補佐するものを欲して、もやもやと危うい時期を過ごすのに似ている。
 メトロポリタン美術館での暮らしは、最初は「冒険」として緊張してわくわくして過ごすけれども、選択の度に薄汚れてしまう下着や靴下のように新鮮さが薄れてくる。そんなときのミケランジェロの天使像は、クローディアにとって当初の非日常への目的――家出とか噴水で体を洗うこととか両親の本を離れることとか――から彼女に身体に見合った目的へと変貌させるキッカケになる。
 
 ……って、分析しても仕方がない。たぶん私が小学生の頃に読んだならば、ミケランジェロの天使像の台座に押された刻印を発見したところを読んだ瞬間は、それはそれは本物の大発見をしたように喜んだと思う。そして、館長からの手紙におおいに失望したと思う……ほんとのことを言えばおおいに失望してしまった。だから、最後に出てくる老婦人から与えられる証明のサインだって、あたかもほんとうにあるかのように、そして一般に知られていない秘密を共有するかのように、この物語を覚えていると思う。

update: 2003/04/22
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