書評日記 第51冊
おのれらに告ぐ 平田弘史
日本文芸社

 おのれらに告ぐ、おれはおのれら全てを不幸にしてやるのだ。

 平田弘史選集第一巻「おのれらに告ぐ」は日本文芸社より一冊弐千円也、全八巻であれば、一萬六千円に加え若干の消費税にて購入が可能。他に「片目の軍使」、「薩摩義士伝」、「お父さん物語」、そして、現在連載中の「怪力の母」がある。一見されたい、これぞ大人の漫画である事が御理解頂けるであろう。

 平田弘史は貸本時代からの漫画家であり、所謂武士漫画を専門としている漫画家である。貸本という制度を御存じない諸君諸嬢に説明すると、貸本屋とは現在の様に漫画本を買い取るのではなく、某かの金銭を支払い漫画本を借りるのである。所謂有料の図書館と思えば当たらずも遠からずという所であろうか。
 俺は貴重な事に実際に貸本屋に入った事がある。我が悪友船井の案内により、伊丹のアーケード街の外れにその貸本屋はあった。クリーニング屋を兼ねており、本揃えも現在の漫画本が多かった為、貸本全盛の頃とは比べるべくも無いのだが、その中でひっそりと平田弘史の漫画本が並んでいた事を覚えている。それから半年も経たない内にその貸本屋は潰れ、古いアーケードが取り壊された。今にしてもつくづく思う。嗚呼、あの時、ぱちっとけば良かった。

 平田弘史の魅力は、なんと云っても武士漫画の迫力である。首が飛ぶ、頭が割られる、袈裟がけに切られる、刀に染み込む血糊、熱い吐息、体臭、沈黙、義憤、義理、等々、武士道が此処には或る。
 殆どが原作付きであり、所謂侍小説家がそこには名を連ねる。しかし、彼の迫力はそれを凌駕する。平田弘史の絵柄は、俺がのんのんと描いてきたものを蹴散らして呉れた。尤も、漫画という迷路に更に深く踏み込む事になるとは思いもしなかったが。
 今の絵柄からは想像出来ないかも知れないが、当時諸に影響を受けていた時期は、かなり模写した。いや、正確に云えば、模写をすること何かを掴もうとしていた。ま、今考えてみても、決して似ては無かったし、下手だった(平田弘史が巧すぎたとも云える)ので到底追い付ける事は出来なかったのだが。少なくとも、今の俺にとって平田弘史は恩師にも近い存在である。

 さて、俺への影響を話しても仕方が無いので、平田弘史本人の活動を話そう。平田弘史は、大友克洋と共に海外へ輸出された。雑誌名は忘れたが、科白が横書きでそのまま海外に出版する事を目的とした雑誌があったと思う。その雑誌の関連で輸出された。
 あと彼は機械工作が好きであり(8ミリ映写機の制作とか、旋盤を扱ったりする。)、キーボードで音楽も奏でる。歳はかれこれ60歳になるはずだが、未だ現役バリバリの漫画家である。人間此れ活力である。

 先に貸本が稀少本である事を話したが、平田弘史のテンションは年々上がって来ているので何も弐千円也を出して古本を買う事は無い。(俺は買った。平田弘史マニアなので。)Mrマガジンで連載されている「怪力の母」(集英社)を購入すればそれで良かろう。

 〆の言葉は「外骨」先生の御言葉から。
「皆さんのお陰と云わず、我が輩のお陰によるこの記念。読者に媚を売る様な記念品は何も無い。」

 ぐはははははは。
 (いや、何も思い付かなかったのであるよ、うん。今後もよろしゅう。)

update: 1996/07/19
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