書評日記 第243冊
休暇の土地 景山民夫
新潮文庫

 TVタレントとしての景山民夫しか知らない。あの目の離れた顔から出る数々のコメントを耳にすることが多いのだが、なんか好きではない。一体どのような作家なのか知らないのだが、俺とセンスが合わない。スノッブなTVというメディアに出演するぐらいだから、今となってはもう駄目なのかもしれない。

 「休暇の土地」を読んだが清水義範の本を読んだ時と同じ感想を得た。何処かレベルが低いような気がする。
 筒井康隆の方がギャクセンスが高いという訳ではない。多分、俺がミステリー小説を読めない理由と同じなのかもしれないだろう。実質的な種明かしをされると途端に興が冷めてしまう。
 あとがきで景山民夫は「元禄異種格闘技戦」と「ご町内諜報戦」を面白いものとして挙げているが、俺は此等の作品が一番面白くなかった。捻りが無さ過ぎる、というか、やはり知的な捻りが欲しい。トカチェフが当たり前の時代に大車輪を喜んでいるように見える。

 どちらかといえば「チキンレース」の方が面白い。シトロエンという古い車を使うところに妙技がある。まあ、ただそれだけの事かもしれないが、そういう配置への気遣いというものが、作品の場には大切な事が多い。
 むろん、全編ギャグとして捉えることが出来るかもしれないが、それにしても深みが無いような気がするのが不思議だ。其れは、TVタレントとして出ている景山民夫という人物から来る面白味の無さなのかもしれない。TVから来る強烈な個性が感じられないように、「休暇の…」に於いてもそれぞれの短編から出てくる波長が俺にマッチしないのかもしれない。やっぱり、俺は景山民夫が嫌いなのであろう。

 解説を書いている清水義範も何処か胡散臭い。「きしめんと蕎麦」を以前読んだが、今の読者のレベルはもうちょっと高いのではないだろうか、と思う作品がある。読者に寄り添い過ぎている感じがして嫌らしい。彼も俺があまり好きではない作家である。
 景山民夫は吉川英治賞を40歳で取ったそうだ。翌年、清水義範が取っている。その次の年に椎名誠が取っている。椎名誠もあまり好きな作家ではない。なんか、はしゃぎ過ぎな文章が嫌いだ。
 でも、それぞれ売れっ子作家であるわけだから、たくさんの読者がいるに違いない。ただ、俺は多読をするけども彼らの読者ではない。其処に違いがあるのだと思う。

 文を見れば人柄が分かる。本を読むという事は、ひとりの作家の本を好んで読むということは、その作家自身の人柄に惚れているのかもしれない。少なくとも俺はそういう風に読んでいる。
 また、人間性というものは文章自体に滲み出てくるものだ。如何にも正論を吐いているように見えても、ちょこちょこと考えの浅さが露呈してしまう部分がある。考えの浅さというものは、欠点でしかない。その欠点を自覚すれば良いのだが、自覚がない者が多い。その状態を無反省というのだが、反省のない所に発展はない。発展しなければ、人間は豊かにならない。豊かにならない者が、豊かな小説を書ける訳がない。
 故に、俺はよく物事を考えるわけだが……。インターネットでのweb日記にそのような無反省なものが氾濫するのに嫌気がさす。ただ、所詮、解からぬ者は解からないと諦めるしかないのだろうか。

 俺の領域を邪魔しない限りは黙するのが有効な手段なのだろうか。それが誰でもやっていることとはいえ、俺はそれほど鈍感ではない。

update: 1997/02/12
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