書評日記 第404冊
白樺記 荒俣宏
集英社文庫 ISBNISBN4-08-748655-9

 荒俣宏の小説はあまりおもしろくない。『帝都物語』が最高だったのに比べると『ワタシnoイイエ』だって幾分落ちる。『白樺記』は武者小路実篤を主人公にして色々と蘊蓄が出てくるのだが、サイテー!と言い切ってしまえるほど詰まらない部分も多い。なのに、私は荒俣宏の小説が好きだ。
 
 久し振りに『グインサーガ』が読みたくて買っていなかった外伝11・12を買い、読んだ。中学・高校の頃は熱心に読み、のめり込んだ。それが文学的であろうとなかろうと関係なく、自分の人生観の中に潜り込んできた。
 夏目漱石や三島由紀夫の小説を読んだ今の私には、『グインサーガ』も、そして多分『帝都物語』も隙だらけかもしれない。グインの語る長舌も、式神を操るおどろおどろしさも、私にはSF小説の中の出来事としか見えないかもしれない。逆に云えば、そういうファンタジーをSF小説の中に求めるようになってきたと云える。もちろん、村上龍や村上春樹を自覚的に読んだり、松浦理恵子の文章にひとつの真実を感じたり、河合隼雄の文章の中にユング心理学を意識しながら読んだり、することも今後のために必要なのだが、作者の創る世界に心底から遊ぶことができなくなった自分はあまり幸福には見えない。むろん、それが無知ゆえの幸福だったとしても。
 
 社会に出て、諦めることを覚え、徹底的な他人と徹底的な身内に打ちひしがれて、それでもなお、自分のことは自分で背負っていけるだけの己の力を信じて、未だにごたごたやっている私の心の支えは、荒俣宏の姿にある、と云っても過言ではない。
 同じように理系であり、同じようにコンピュータ会社に勤めた(勤めている)という事実がそう思わせるのか、それとも、そのような経緯だかこそ、親近感を抱くようになったのか判然としないのだが、すべてを網羅しようとはしないものの、あたかも博学であるかのような荒俣宏の知識欲は、立花隆とは違った好感の持てる阿呆さ加減なのかもしれない。
 
 そう云えば、『ブックライフ自由自在』で数年前に再婚をして、貧しい独身生活(特に食事)に終止符を打った、と書いてあったけれども、そこから類推すると、『白樺記』の発端はなんとも微笑ましいところにあるのかもしれない。
 そんな荒俣宏が私には好ましい。

update: 1998/1/26
copyleft by marenijr