書評日記 第592冊
ファニーエンジェル探偵団1 島田元
ティーンズミステリー文庫 ISBN4-591-06441-7

 渋谷の道玄坂をのぼり、右手にある異様な顔のパックマン目印の百軒街の看板をくぐる。突き当たりのローソンを左手に曲がって行列が出来ているラーメン屋・喜楽を通りすぎたところの古いレンガ、埃の被ったショーケースを持つ店が「ムルギー」である。渋谷に職場を持つ私ではあったがつい最近まで知らなかった。というか、あのひからびかかった蝋作りのカレーのサンプルを観て、即座に入ろうとする人はあまり――皆無ではないだろうから、「あまり」――いないだろう。
 扉を開けて入り昼時なのにがらがらの店内はサラリーマンが二人のみ。白黒のテレビこそ無かったが、これだけ地価の高い場所にあって(調べていないの本当に地価が高いかどうかは不明)この客の入りとは、と驚きを隠しつつ、四人席のテーブルへ一人。当然の如くムルギー玉子入りカレーを注文する。よろよろの翁は出てこなかった。厨房には白い三角巾の媼がいる。息子夫婦らしき二人が駄弁っている。
 出てきたチョモランマ風に盛り付けられたご飯は腹を満たすのに十分……つーか、三分の二を過ぎたところで腹いっぱいです。カレーは後から効く辛さ、と書いてあったけど、それほどでもない。黒い粒々は胡椒らしい。ご飯の側に甘めの黒味噌(と思う)が添えてある。たっぷりと入った汁はプレーンではあるけれど、具が入っていても喰えません、腹一杯で。サラダもいけるらしいのだが、到底入りません。ちょっと、コーヒーも飲まずに退散してしまったのが残念か。程よくジャズが流れる店内は昼時よりもライブ帰りの若者に人気のあるスポット(死語)ではないかな、と。
 
 ポプラ社から出版ということで新宿の紀ノ国屋二階を探したが無かった。店員に尋ねると、一階の漫画のコーナーに置いてあるらしい。帯を見ればティーンズミステリー文庫は創刊したばかりであった。
 読めば、「机の上に置かれたピンクの下敷きのようなマウスパッド」にガックリとなるが森博嗣でさえそのような間違いを最初の頃は犯していたのだから、そうでもないのかな。コンピュータの専門用語(らしきもの)を過剰な説明なく書き下す――あるいは描写に拘りすぎる文芸癖?――ことができるのはそう遠くないはずだ。
 さすが(というのもおこがましいが)科白廻しはうまい。前半三分の一の描写過剰ぎみのストーリーに比べると真ん中あたりから作者の趣味も入ってか(レコード店のあたり?)読み飛ばし書き飛ばしのスピードが加わって流れが良い。もちろん、「ファニーエンジェル探偵団1」となっているから続きである。同じキャラクターがこの次からは前説なしで入れる、逆に一巻目はキャラクターの描写がくどくどあったりするものだが、この場合は端折る端折る。唐突に探偵を頼まれてしまうところは漫画の比ではない……のだが、この辺りはページの都合か。
 後半をちょっと過ぎたところの中だるみを感じるものの(イチャイチャ作戦の前後あたり?)、定番の(?)どんでん返しもあって勧善懲悪の結末があり、と綺麗にまとまる。引きもよろしく次巻へと繋がる感じも良い。
 登場する男の子がジャニーズ系だ……といのはさて置き、ストーカー行為まがいの青年が街を出るはめになるまで懲らしめられてしまうのはちょっとさみしい気がしないでもない。彼自身も悪さを受けたのだから、とんとんで謝っておしまい、という終わりのほうがすっきり来ないだろうか。そうでもないかな。悩むところだ。どちらかと云えば、女の敵はケンタだったような気が。う〜む。ティーンズ向けを考慮するとどちらがいいだろうか。
 
 次回作の推測。舞台は「ファニー」でしょう、多分。今回は「ファニー」の店長が絡まなかったのでこれを期待したい。三人の組み合わせは据え置きとして、先生がちょとした相談役かそのあたり。
 しかし、私にはミステリーを書く頭を持っていないので読者に徹して、おしまい、とス。

update: 2000/09/19
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