書評日記 第594冊
グリーン・マイル(死刑囚と鼠) スティーヴン・キング
新潮文庫

 珍しく BOOK OFF に本を売りに行った。漫画本を紙袋一杯にして自転車で阿佐ヶ谷商店街に行く。十分弱の査定の後出てきた金額は二千某円であった。と、その中に富岡多恵子の「なみうつ土地」を入れてしまったのに気がついたのは BOOK OFF を出てからであった。しまったと思ったが後から買い戻しに行くことにした。一旦売ったものを、しかもお金の取引をして相手のものになったのだから、好意で戻してくれるはずはない、と踏んだためだ。実際はどうか分からないが、ま、後日、まだ覚えていれば、ということにした。
 そして買い戻しに行く。BOOK OFF にはちくま文庫のコーナーはあるが講談社学芸文庫のコーナーはない。まあ、あれだけ馬鹿高い文庫本を売る人はめったにいないのだから、と思い「と」の著者コーナーを探す。すると、あった。確かにこの表紙の折れ具合、栞が挟んでいる場所は自分の読んだところまでだ。苦笑しつつ即買い戻すことにする。六五〇円は高いのか安いのか。定価が定価なものだから、新しい文庫本を買うのとそう変わらない。
 で、それだけでは余りにもなので、キングの本を買う。私にしては珍しく流行の本を買うことにした。六冊並んでいるうちの「グリーンマイル」の映画に出て来る鼠のシーンを選んだと錯覚し、二巻目だけを摘み喰いすることにした。映画はこの二巻目のみが原作になっていると思ったからだ。だが、読み始めるとどうも読みにくい、「わたし」とは看守らしいのだが、その一切の説明がない。他の登場人物も説明書き無しで書かれているので判別がしにい。キングのスタイルはこうだったのか、と妙に納得しつつ更に読み進めると鼠は出てくるのだがあの黒人の死刑囚のコーフィがなかなか出てこない。半分を過ぎても出て来ず、ラスト三分の一になってやっとEブロックに戻って来る、ことが書いてある。鼠は糸車を廻すし「わたし」の股間は痛むのだが、あのコーフィのシーンはこんな短い紙面で済まされてしまうのか、と思いつつ、そのまま二巻は終わってしまった。
 ちゃんと一巻から六巻まで続いていたことを読み終わってから気付いたのである。
 
 一ヶ月に一冊、半年で完結という形式は漫画ちっくで面白い。確かに最初の本、二巻めと進んで、全体の解決は四ヶ月後に、という趣向はこれからどうなるのだろうという期待が持続していて長く楽しい時間が過ごせる。毎週毎週一〇数頁で綴られる週刊漫画雑誌に似ている。十数巻に渡るストーリー漫画を一気読みするよりも、毎週読み、来週に続き更に来週に続くという現実時間の使い方は、架空の世界を現実に添わせるゆえの魅了を持つ。

update: 2000/09/28
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