書評日記 第644冊
ルビーフルーツ
斉藤綾子
文春文庫
ISBN4-10-149511-4
ルー=ガルー
 初っ端の「婦人警官 正美」を読めば、全体像が知れる、っつーか、山田詠美とも栗本薫とも違う世界が広がっているのに驚き。いあわゆる、ポルノ小説に分類されるのだろうけど、女性のための女性自身が描いたポルノという点では、石坂啓の『Money Moon』に出てくる趣向に似ている。『Money〜』自体はポルノ漫画ではないのだが、女性である石坂啓が男性向きのAVから女性向きのAVを開拓するという部分の実践版と言ってもいいと思う。ただし、『ルビー〜』の場合は、ブラックなところもありハードコアな部分もあるので、女性ではない性の人にはちょっと避けて通ってもいいかな、という感じもする。女性が巷のエロ本を見ない、という点で。
 
 しかし、いわゆる「やおい」ではない。女&女という絡みが多いし、性的な描写は一般的な小説から比べたら随分と多いのだが、そのあたりが単にエロ本・エロ雑誌に陥っていないのは、「ブラック」な部分が著者・斉藤綾子から漂ってくるからなのかな、と思う。高橋源一郎の『アダルト』を読んだ時ともかなり違う。『アダルト』の場合は、極めて明確にSMに焦点を合わせて、現実の(?)アダルトビデオ業界のSM女優&男優にインタビューを行い、純文学に性文学をという意気込みで高橋源一郎が取り組んだわけだなのだが、それほど『ルビー〜』は気負っていない。
 対するところで言えば、渡辺淳一の『失楽園』とか日経新聞連載中の『愛の流刑地』なんてのがあるのだろうけど、『愛の〜』もいい加減といえばいい加減なのだが、やたらに早く服を脱いでしまうのは、スポーツ新聞掲載の小説と何処が違うのか?と疑問視したりするのだが、ジャンル分けはどうあれ、著者というカテゴリ分けが優先されるので、単なるエロ小説、という見方は『愛の〜』はされないのだろう。そういう点では、『アダルト』もそうかもしれない。
 
 そういえば、バカSF小説が流行った時期があり、「たいやき編」の中にアダルト小説を専門に書いている著者が、バカSF小説を書いていたのだが、いわゆる文体の違いというか語彙の量の違いというか、厳しく言えば「想像力を喚起しない文章」はあまり面白いとは思われず、そういう視点からみれば『ルビー〜』は想像するに面白い余地を残していると思う。
 
 あとがきに賛否両論という形で、小林信彦が「悪意」という形で褒めている(のかな)。男のからの悪意というよりも、やっぱり斉藤綾子の悪意のほうが面白くて、結局のところ、サドでありマゾであり、『蝶の纏足』のように、マゾ的な部分に読者は身をおいて、ちょっとした不道徳感を楽しむ、というのが正しい読み方かもしれない。勿論、加害者=男あるいは女、という形で見ることもできるけど、マゾ的な主人公の描写が多いわけだから、層感じるのが普通かな、ということである。
update: 2004/12/17
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